ガラスの実験住宅プロジェクト…計画コンセプト (文:須藤慎一)
自宅の建築プロジェクト。建築家に預けっぱなしにするのではなく、いろいろな面での実験を盛り込み、新しいことにトライし遊ぶというもの。環境共生建築+ソーラー建築+寒冷地建築+美的ネットワーク対応建築がキーワード。ネットワーク/電気まわりは、須藤が設計し、一部は施工も行なっている。 用途 日常の住まいとして使う住居 所在地 長野県北佐久郡軽井沢町 設計監理 井口浩 フィフス・ワールド・アーキテクツ 施工 株式会社武田工務店 期間 建築家探し1995〜1996年 設計1997.1〜1998.4 施工1998.5〜1998.12 定住1999.1 |
現地は、ゆるい傾斜地の頂上部で、たくさんの老木に囲まれている。室内にも、この自然を取り込む住宅でありたいということになった。 家づくりについては、20年後に評価が定まればよいということにし、実験的な住まいづくりを許容することとした。20年後の評価はシビアなものになるかもしれないし、井口氏の先見性を示す代表作になるかもしれない。
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北から見た側面 外壁は、ほぼすべてがガラスで、かぎりなく外界との境界をなくしている。屋根と2階廊下もガラスである。これにより、木立の中の自然を、室内から感じ取れる。同時に、外から見た際には、建物が環境(自然景観)に溶けこむ環境性を追求した。屋内と天井に設置した引き戸(断熱構造)で閉空間を作るようになっている。ガラス温室の中に小さな小屋を建てて、そこで住むと気持ちいいというのが、わかりやすいイメージだ。 |
俯瞰 方位は、上が南東。棒は、樹木の実測位置である。 建物は、楕円の一部を切り取った形をしている。これは、北方向の浅間山の景観を十分に受けとめ、そこを生活の中心とするためである。建物の外部を巡る楕円はサークルデッキだが、実計画では予算不足で断念した。 屋根の透明部分はガラス、不透明部分はOMソーラー集熱面である。
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ソーラー建築+寒冷地対応気象台記録によると最低気温はマイナス18℃である。実際、マイナス15℃になることがある。1年を通じて、東京の気温マイナス10℃が、現地の気温である。夏は換気だけで暑さ対応が可能。一方、冬は周到な対策が必要である。そこで、OMソーラー(追い炊き灯油ボイラーつき)と電気式床暖房を併用し、全室床暖房とした。 外壁と屋根が複層ガラス・強化ガラスのため、それだけでは真冬の暖房容量が不足する。そこで、可動式の折り戸とスライド式天井によって屋内をひとまわり小さく囲えるようになっている。折り戸とスライド式天井は、いずれも断熱材入りとした。これらにより、最寒冷期には、ひとまわり小さい閉空間をつくり、そこが快適空間として「生き残る」ようにしている。これが、ガラス温室の中の小さな小屋に相当する。もちろん、プライバシー確保にも、これを活用する。 美的ネットワーク対応建築電気のコンセント、AV配線、電話、LANなどの配線が、今後も増える傾向にある。これらを露出することなく美しく収納することと、今後の配線の変更に柔軟に対応できる方式を採用した。これは、ショールーム建築などで、須藤が実際に採用している方式を住宅に持ちこんだものである。 電器メーカーの住宅むけの資料では、先行配線と電器メーカー製のシステム配線器具を用いることで、将来の電気/ネットワーク配線に対応できるとしている。しかし、現実的には難しい。将来の規格にあう配線が、いまのものと同じかどうかわからない。いま通した配線が、その時点で劣化しているかもしれない。そのわりに、システム配線器具や先行配線工事は高くつく。結論的には、柔軟な配線計画とは、あとからでも変更が可能となる配線スペースを用意しておくことに尽きる。線はあとから通せばいいし、器具もあとからつければいいのである。 OMソーラーを採用したので、すべてのフロアにはOM吹き出し口がある。そこで、この吹き出し口を通常よりも深く掘り下げ、そこを配線スペースとして利用している。縦方向の配線スペースも、OMソーラーの縦ダクトのまわりに、ひとまわり太いパイプを回し、内部を配線スペースとして利用することとした。これにより、今後も任意の場所に、任意の配線を拡張できる。ダクト内は露出配線となるので、露出用器具を使うことができる。低価格な部材を利用でき、工事工数の低下のメリットも得られる。予算不足により、照明は最低限を工事している。今後は、須藤が増設していく予定である(第2種電気工事士、アナログ/デジタル工事担任者でもある)。 |
OMフロア断面構造 (画:井口浩)