東京大停電 - 輪番停電・計画停電にUPSで備えるには?

東京電力の電力危機、輪番停電・計画停電について

東北地方太平洋沖地震、長野県北部地震ならびに東京電力福島第一原子力発電所災害に遭われたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。

地震により東京電力管内の発電量が不足していることで、東京圏では計画的な停電である「輪番停電(りんばんていでん)」を行う可能性が出ています。思えば2003年に同じような状況がありました(当時は輪番停電を行うことなく乗り切った)。この件に関係して筆者が2003年に書いた記事が、今回の輪番停電でも参考になればと思い再掲します。PCやサーバをUPSにつないでいる場合でも、事前にチェックしておかないと役に立たないことがあるのでご注意ください。

『東京大停電』の教訓 IT業界、ネット業界は新たな危機管理が必要

発電量を上回る需要があると"ブレーカが飛ぶ"

2003年、東京電力は原発トラブル隠しなどの不祥事により、原子力発電所のすべてを停止して安全確認を行なうという異常事態に陥った。多くの原発が止まったままでは、最も電力消費量が多くなる夏に電気が足りなくなることは確実。原発再稼動を急ぐとともに、節電のお願いに必死であった。

電気が足りないとは、発電量よりも需要量が多い状態のことである。通常であれば電力会社は、需要よりも多くの電力を生み出すだけの発電所を運転している。発電量に余裕のある状態で発電所を運用するから電力不足になることはない。

ところが、東京電力の水力や火力などの原発以外のすべての発電所を運転し、他の電力会社からの融通電力を購入しても需要量を満たすことができないのだから一大事なのである。2基の原発を動かすことができて、ようやく発電量が足りて一安心できたというわけだ。

発電量を上回る需要があったら"停電"が起こる。しかもかなり広い範囲にわたって停電し、復旧には時間がかかる。家庭で電気を使いすぎたらブレーカが飛ぶのと似ているが、広域停電を復旧するのはブレーカを入れなおすような簡単なことではすまない。

電力会社のエリア全体がダウンすると停電が長期化

日本でも需要量が発電量を上回って停電したことがある。1987年7月23日に首都圏の1都5県が停電し、復旧には3時間かかった。猛暑で東京電力の発電量調整が間に合わなくて大停電となった。海外では1977年7月のニューヨーク大停電が有名である。このときは発電所への落雷が原因で広域停電し、完全復旧までに3日間もかかった。

発電や送電設備の事故などで突破的に電力不足に陥ると、これらのように広域の停電が発生し、復旧までには長時間かかる傾向にある。東京でもニューヨークでも、電気がいったん復旧したがまた停電するということを繰り返したという。

2003年には、6月26日からの数日間にイタリアのローマやミラノなどで停電が起こった。6月としては記録的な猛暑により電力不足になり、やむなく一部地域の送電を停止したのだという。地区を変えながら1時間程度の停電を行なうことで、それ以外の地域には電力供給を続けられた。ただし場所と時間の予告がなかったので大混乱になった。

イタリアのこの方式は"輪番停電"と呼ばれ、電力不足で発電システム全体がダウンするのを防ぐ手段としては典型的なものである。2001年1月のアメリカ、カリフォルニア州の電力危機でも輪番停電が行なわれた。このときにはシリコンバレーでUPS(無停電電源装置)が売り切れたり、全米のIT/ネット関係のビジネスが大きな影響を受けた。

2003年の東京の電力危機の際は、電気を大量に使う事業所や工場は、業務時間の変更や休日の振り替えによってピークの時間帯の電力消費を避ける協力をすることになった。オフィスビルやデパートなども冷房温度を高めに設定したり、照明やエレベータの一部を停止して節電に努めた。


広域停電はIT/ネット時代には全国的な危機

日本の主要電力会社は10社である。東京電力以外の地域に住んでいる人も多いので、自分は無関係と思っているとしたら危ない。周囲の電気は止まらなくても、東京圏にある通信や金融などの社会インフラが混乱すればビジネスや生活に大きな影響が出るのである。

1987年の東京大停電では、銀行オンラインが停止して、全国のATMで預金が引き出せなくなった金融機関があった。東京に電話してもPBX(構内交換機)がダウンしており、電話に出ることもできなかった企業や役所があった。新聞社は夕刊の発行スケジュールが大幅に遅れた。

IT化がいっそう進んだ現在、さらに深刻な影響が全国的・全世界的に出る可能性が高い。パソコンやインターネット機器など商用電源で動作する機器が生活や仕事に根付いている。サーバもクライアントPCも数が大幅に増えている。インターネット接続点IXに東京圏でつなぎこんでいる企業やプロバイダは多い。常時接続の通信環境を前提に業務システムやサプライチェーンを構築している企業も多い。

なかでもインターネット系のサービスは知らないうちに東京圏のシステムを利用していることがある。会社としてのプロバイダの所在地とサーバや通信設備の設置場所は一致しないから、知らずに東京圏の機器に依存していることもあり得るのだ。インターネット電話の交換機に相当する呼制御サーバが東京にしかないという可能性もありうる。大阪が停電するという場合であっても、同じ理由で全国的な影響が出るだろう。

通信・ネットワーク対策こそ大問題

このように東京や大阪といった大都市停電は日本全国だれにとっても他人事とはいえない重大事なのである。停電と節電の話は東京電力や経済産業省の広報で数多く露出されたが、通信とネットワークにも対策が必要だという話は見落とされがちである。

2003年の際、富士通は顧客向けに停電対策の総合的なコンサルテーションサービスを提供すると発表した。他のコンピュータメーカでも同様なサービスを始めている。

インターネットプロバイダの中には停電した場合の対策と注意を発表したところもあった。ユーザ側の停電対策の情報だけではなくて、プロバイダ施設が停電した場合にどのように対応するかを公表していると、少なくとも安心感がある。

停電に備えて電源装置や自家発電装置の試運転や訓練を実施したり、特別な顧客サポート体制を整えた通信事業者などもあった。関東以外にも施設を持つ通信事業者や企業の中には、停電の影響を受けにくい地域にサーバを併設したりバックアップ体制を敷くなどの対策を行なっているとこもあったという。

その際、自分や会社にとって重要なインフラ会社がどのような停電対策をしているかを調べておくのはよいことだ。電話会社、インターネットプロバイダ、金融機関は必ず調べたい。通販やチケット予約、掲示板などよく使うWebサービスも調べておくといいだろう。

停電対策はしてある"はず"と"つもり"がトラブル原因

身近なオフィスや家庭で停電対策なしというのは論外である。停電で影響をこうむる機器には最低でもUPS(無停電電源装置)をつける。停電で停止すると困るサーバ、作業中のデータが飛ぶと困るクライアントパソコン、LANスイッチやルータ、モデム類にUPSは必需品だろう。

ところがUPSをつけている人でも"はず"と"つもり"のトラブルは多い。まとめてみたのでセルフチェックしてみよう。

UPSの電池はまだある"はず"

UPSの内蔵充電池は消耗品で、2~5年ごとに交換する必要がある(交換不能タイプはUPSの買い替え)。買った時期すら忘れたUPSは電池切れの危険性が高い。停電時にUPSが働かなければ、UPSがついていないのと同じである。

ちなみに期限切れの充電池を使い続けると、電池内部が短絡(ショート)して発火事故の危険性があるとUPSメーカが注意を呼びかけている。UPSによっては自分で充電池を取り替えられるものがある。メーカサポートに持ち込めばその場で交換してもらえるものもある。

UPSに差し込んだ"つもり"

サーバやパソコンの裏は配線が渦巻いている。UPSにつなぐ機器とつながない機器があるので電源といえども配線は複雑である。UPSにつなぐべきものをつながず、つないではいけないものをつないでしまうとどうなるだろうか?

UPSにつながなければ停電イコール電源断になってしまう。

UPSにつなぐべきでない機器をつないでしまうのもまずい。停電しUPSが動作を始めた瞬間にUPSの容量を超えて安全装置が働き停止してしまう。UPSをつながないはずのレーザプリンタをつないでしまったという失敗例が多い。

UPSの容量は超えていない"はず"

UPSには供給できる電力容量には限界がある。パソコンの周辺機器を次々増設し、すべてをUPSにつなぐと知らずに容量を超えてしまう。

さらにUPSの容量の表示は、VA表示(皮相電力)とW表示(有効電力)の2通りがある。W表示=VA表示×約65% という計算式が成り立つ。パソコンなどの電子機器のほとんどは消費電力をW表示しているが、その合計W数はUPSの容量のW表示と比較しなければいけない。より大きな数値のVA表示と取り違えると、いざというとき容量オーバーでUPSが停止してしまう。

自動シャットダウンの設定をした"つもり"

停電時にUPSが電力を供給できる時間は限られている。そこで停電時や充電池切れ間近になるとUPSが信号を送り、サーバやパソコンをシャットダウンさせる機能を使う(この機能のないUPSもある)。

しかし、UPSとサーバ/パソコンをつなぐケーブルが外れていたり、自動シャットダウンソフトのインストールや設定を行なっていないというトラブルが多い。こうなるとUPSが電池切れで停止すると、停電したのと同じことになってしまう。サーバ/パソコンのOSのバージョンアップの際にUPSがらみの設定まで頭が回らないで忘れてしまうのが原因になりがちだ。

復電時にブレーカは飛ばない"はず"

停電が終わって再通電されることを"復電"というが、復電した瞬間にUPSがつながっているブレーカが飛ぶという事故がある。それまで飛んだことがないブレーカが飛んでしまうである。

通常は、UPSにつながっている機器の消費電力+UPSの補充電をするのに必要な若干の電力がまかなえる電源容量で事足りる。停電するとUPSの充電池を消費する。複電すると、UPSの充電池を急速充電するためにUPS自身が大量の電力を消費する。もちろんUSPにつながっているIT機器も電力を消費する。こうして、思っていた以上の電力が必要になりブレーカの容量の制限値を超えてしまうのである。これは、容量の大きなUPSをつないでいる場合に起こりやすいトラブルである。

インターネットや電話系の自己防衛はできるのか?

自営設備の停電対策はやろうと思えばUPSから自家発電まで完璧をめざせる。それに対してインターネットや電話など通信まわりについてはどうだろうか?

現在利用している通信サービスの停電対策に不安が残るなら、別のサービスを契約してバックアップ体制を作ることはできる。ADSLや光のインターネット接続の代わりに、ISDNや加入電話や携帯/PHSを使うことはできる。しかしアクセスポイントまでの接続ができても、プロバイダとその先のインターネット網が停止している可能性がある。携帯/PHSの基地局は長時間の停電に対応していないものがあり、基地局ダウンという事態もありえる。

銀行やコンビニでは通常の回線が切れるとIDSNで迂回接続を試みることが多い。一般企業の業務システムでも同じ方法を採っていることがある。停電が発生すると異常事態を通知するために自動的に電話をかけるシステムも多い。自動運転中の工作機械、農業用ハウス、エレベータなど多種多様である。停電そのものや、停電の影響で通信異常が発生すれば、日本中で一斉に電話やISDNを発呼する可能性がある。電話網は輻輳(ふくそう)に陥ってつながらなくなってしまうかもしれない。

インターネットでも同じ危険性がある。自動的にルーティングを変更して別ルートで接続する設定の機器が多く存在する。"生き残った"ネットワークもこれらの影響を受けるかもしれない。

次なる電力危機への対策を検討しておこう!!

実はインターネットや電話系については、東京大停電のような大規模な停電が起こった場合にどうなるかがわかっていない。前述の事態が起こるとも起こらないとも断言できないのである。今回の電力危機騒ぎで、ようやく危険性が認識され始めた段階であり、実際にどのような状況になるかのシミュレーション結果が出てくるのはこれからだろう。

電気や通信の代替手段の検討だけでなく、電気や通信の長時間の途絶の対策まで考えるというのは実は莫大なコストがかかることが明らかだ。そのために最初から「や~めた」という会社が出てきてもおかしくはない。そもそも停電すればビルの水が出なくなったり、階段で移動しないといけなくなるとなれば仕事にはならないだろう。個人レベルでも、もはやメールも電話も来ない状態を我慢できるのだろうか?

となると阪神大震災の教訓にもう一度立ち戻る。東京、大阪といった大都市以外の地域に企業運営や国家運営の主導権を譲る、ネットや通信に依存しない仕事や生活に励むなど、いままでの日本の"常識"を覆す仕事や生活パターンを生み出す必要がある。夏休みや年休をこの時期に集中消化する企業もあるというが、むしろ賢明と言えるのかもしれない。

東京大停電の騒ぎは、ITやネット系のビジネスの弱点を見直すきっかけを与えてくれた。停電危機の解消とともに忘れてしまうことなく、対策を進めておきたいものだ。

(2003年夏にWebコラムとして初出。2011/3/12 一部加筆訂正して再掲)