非常時の通信手段の確保・・・音声&データ

大規模災害などの非常時に備えて、ふだんから自分で確保しておく通信手段は?

この質問に対して、阪神淡路大震災の様子から、「日本では、初動時はV/U帯ハンディトランシーバーやモービル機+仮設アンテナ。その後は臨時レピーターが設置され、少し範囲を広げての通信ができるようになる」という認識でいた。そこで、非常持ち出しバッグには、V/U帯のハンディ機と予備電池を突っ込んでおいた。

しかし3.11により、この認識は不十分というか誤りだと気付いた。ハンディでは対応できない、次のような事態が起こっていたからだ。具体的には、(1)初動時に、V/U帯が届かない100から200km程度の通信が必要。(2)小山を挟んだ谷どおしといった、V/U帯の電波が届きにくい地点間の通信の確保が必要--の2点にまとめられるように思う。

3.11後にぼちぼちと資料を探したら、ARRLでは以前からEmComm(Emergency Communications)、ARES(Amateur Radio Emergency Service)を普及させる活動に熱心で、前述の(1)(2)を満たす非常時の通信も訓練していることがわかった。なかでも、NVISとNBEMSの2つに興味をひかれた。調べた範囲を簡単にまとめると以下のようになる。

NVIS(Near Vertical Incidence Skywave)は、(DXを目指ざさず)近い距離のHFの通信を確保する方法やアンテナのことである。”NVIS antenna”でググれば情報が出てくる。HF帯A3Eの戦時中の部隊通信用アンテナなどの実例も出てくる。結論的には、日本の非常時の通信に当てはめると、昼間は7MHz、夜間は3.5MHzのSSBとなるだろう。

アンテナは天頂方向の放射が多いものがよいので、給電点の低い水平やV字ダイポールアンテナでよい。実際、給電点2.5mの7MHzダイポールを設置したところ、国内通信に向いていた。一方、NVISとして昔は有名だったのかもしれないLoop SkyWireアンテナは、いまいちだった。3.5MHzの1波長ループを仮設したところ、1/2波長となる1.7MHzあたりにも共振するので、無線機側がAM放送がらみの抑圧を強く受けてデメリットが大きい。これならダイポールを張る方が楽である。Loop SkyWireがすたれた原因を垣間見たような気がする。

NBEMS(Narrow Band Emergency Messaging Software)は、低無線機スペック、低マシンパワーPCなどで使えるデータ通信ソフトウェアのことである。具体的には、Windows/Mac/Linuxにアプリをインストールして、オーディオレベルで無線機をつなぎ、メールやチャットのようにデータを送受したり、CSVファイルなどを送受信する。占有帯域幅500Hzで使えるので、HFでのSSB音声通信と同じ機器で使える(V/UならFMでより高帯域でも使える)。

寝ている間に届くメッセージを記録しておくとか、安否確認者一覧のコールサインのCSVファイルを送受信するといった最低限に近いデータ通信を確立するのが目的である。より太い回線(アマチュア無線でも商用通信サービスでも)が再開するまでに使うデータ通信基盤ということになる。

変調方式がRTTYやPSK31とは違うので、送受信するには総通への申請が必要。ただしPCと無線機はMIC端子経由なので手続きは簡単なはず。今後、申請してみるつもり。